ビジネスの場では、ちょっとした買い出しから社運をかけたプロジェクトまで、誰かに何かを頼まれることは日常茶飯事です。
そして、中には「ぜひ、私にやらせてください!」と言いたくなるものもあることでしょう。
そんな時に知っていると差がつくのが、少し控えめに積極的な気持ちを表すことができる
「喜んで~する」という意味の「やぶさかでない」
です。
しかし、この言葉は「仕方なくする」という意味での誤用も広まっているため、使うときには注意しなければなりません。
そこで今回は、この「やぶさかでない」という言葉について
・意味
・使い方
・「仕方なくする」はなぜ誤用なのか?
といったことを、この言葉の語源となった言葉を紐解きながら解説していきます。
また、例文もご用意しましたので、ぜひビジネスの場で「やぶさかでない」を使うときの参考にしてください。
目次
「やぶさかでない」の意味や語源
「やぶさかでない」の意味は「~する努力を惜しまない」「喜んで~する」
「やぶさかでない」(漢字で書くと「吝かでない」)は、
・~する努力を惜しまない
・喜んで~する
という意味です。
この「やぶさかでない」という言葉を辞書を見てみると、「やぶさか」という言葉のところに
(「…にやぶさかでない」の形で)…する努力を惜しまない。喜んで…する。 「協力するのにやぶさかでない」
(小学館 デジタル大辞泉)
と書かれています。
さて、ここまでを読んで
「知っている意味と違うのはどうして?」
「やぶさかってどういう意味?」
という疑問が浮かんだ方もいらっしゃることでしょう。
次からは、その疑問にお答えしていきます。
「やぶさかでない」の語源や意味の由来は「やぶさか」+「でない」
「やぶさかでない」という言葉は、
「思い切りの悪い、物惜しみする」という意味の「やぶさか」+「否定」を意味する「~でない」
が合わさってできています。
そのため、
「思い切ってやる」「物惜しみしない」=「~する努力を惜しまない」「喜んで~する」
という意味になります。
例えば、「嫌いじゃない」=「好き」のように、マイナスイメージを持つ言葉に「~ない」をつけるとプラスイメージになることがありますよね。
この「やぶさかでない」も同じように、否定の言葉が付いていても積極的な姿勢を意味する言葉となるのです。
「やぶさかでない」=「仕方なくする」は誤用!誤用例もチェック☆
「やぶさかでない」という言葉の意味を
「仕方なくする」
「べつに嫌ではない」
だとするのは誤用ですので、注意しましょう。
これらの本来とは違う意味は、「~でない」という否定の言葉が持つイメージに影響されたのではないかと言われています。
なお、平成25年度に文化庁が発表した「国語に関する世論調査」を見ると、
「協力を求められればやぶさかでない」という言葉の意味を
「喜んでする」という意味で使っている人は33.8%、
「仕方なくする」という意味で使っている人は43.7%
という結果が出ています。
また、「やぶさかでない」という言葉が日常にあまり登場しない若い世代よりも、ある程度言葉の知識がある上の世代の方が本来の意味ではない使い方をしている割合が高いようです。
言葉はなんとなくや思い込みで使うのではなく、正しい使い方を調べて使うのが良さそうですね。
「やぶさかである」「やぶさかではありますが」も誤用が生んだ表現?ビジネスでの使用は避けたほうが無難!
「やぶさかでない」ではなく、
「やぶさかである」
「やぶさかではありますが」
という表現を見かけることがあります。
本来の意味で考えると、
「やぶさかでない」の形の時だけ「喜んで~する」という意味が生じるので、
「やぶさかである」というのは
「物惜しみしている」
「ケチだ」
という意味です。
しかし、SNSなどでの使われ方を見ると、
「やぶさかでない」=良い
「やぶさかである」=悪い、面倒、ためらいがある
といった使い方をされている例もあるようです。
また、
「やぶさかでない」=喜んでやりたい
という本来の意味から、
「やぶさかである」=喜んでやりたくない
といった使い方も見られました。
このように、「やぶさかである」「やぶさかではありますが」は、人によって解釈が大きく変わってしまう言葉です。
そのため、ビジネスの場においては使うことを避けたほうが無難だと言えます。
「やぶさかでない」の使い方
「やぶさかでない」の正しい使い方!「何かを依頼されたときの返答」や「あることを進んで行いたい」時に使う
「やぶさかでない」の使い方は、次のようになります。
・何かを依頼されたときの返答として用いる
・自分からあることを進んで行いたいという意思を伝えるときに用いる
また、以下の点も覚えておいてくださいね。
・「喜んで依頼を受けます」という意思を表す
・「やぶさかでない」+「ですが」(逆接を表す言葉)の形で、依頼を受けるための条件などを後に続けて言うことがある
それでは、詳しく説明していきましょう。
「やぶさかでない」という言葉は「喜んで~する」という意味でしたね。
そのため、
・何かを頼まれたときの返事
・あることを自分から「やります」と伝える
という時に「やぶさかでない」を使うことができます。
また、「~するのはやぶさかでない + のですが…」という形を取ることで、
「喜んで(進んで)~します。けれども…」
というように、何かをすることについての条件や制限についてを述べる場合があります。
なお、「のですが」の部分は、他にも逆接の意味を持つ言葉(けれども、しかし等)を使うことができますよ。
例文を挙げると、
「新しいシステムを試してみるのはやぶさかではありませんが、その前に全社員への研修が必要でしょう」
(行動への条件)
「新年会の参加にはやぶさかでないのですが、あいにくその日は出張で開始時間に間に合いそうにありません」
(行動への制限)
となります。
「やぶさかでない」のビジネスでの使い方
「やぶさかでない」をビジネスで使う場合は、次のことに注意しましょう。
・「私がやりたいです」という気持ちを控えめに伝えるときに使う
・誤用の意味の方で取られることもある
ビジネスの場でも、「やぶさかでない」の基本的な使い方は
・依頼に対しての返答
・何かを積極的に行うという意思を伝える
です。
ただし、ビジネスの場においては、「私がやります」「私にやらせてください」と直接言うよりも、「やぶさかでありません」と表現することによって、控えめな印象を与えることができます。
前のめりに「やります!」という姿勢を示したら「生意気だ」と思われてしまいそうな時には使ってみるといいでしょう。
そして、気をつけなければいけない点は、
4割の人は「やぶさかでない」を「仕方なくやる」というマイナスイメージの意味だと思っている
ということです。
この記事を読んでくださっているあなたは正しい意味を知っていても、あなたの上司や先輩はそうではないかもしれません。
そんな時には、頼まれた内容の詳細を質問したり、行動したいことの具体案を伝えたりして、前向きな気持ちであることを示すようにしましょう。
とはいえ、最近はビジネスの場において相手に誤解を与えるような言葉をできるだけ避ける傾向があります。
前向きな気持ちを伝えたい時には、
「私にやらせてください」
「私がお受けします」
と思い切って伝えることも検討してみてはいかがでしょうか。
相手に誤解されない言葉遣いを身につける方法とは?
さて、ビジネスの場に限らず、正しい意味で言葉を使ったのに、相手に誤解を与えてしまう場合というのがあります。
・普通に話しただけなのに、なぜか相手をイラッとさせてしまった…
・ちゃんと話し合いたいのに、なぜか相手の言い方が気になってしまって話が進まない…
・よく「会話のキャッチボール」と言うけれど、相手と会話が続かない…
こんな悩みを持つ、
「もしかして、私って話し下手?」
と思っている方におすすめしたいのが
『好かれる人が絶対しないモノの言い方』
という本です。
著者の渡辺由佳さんはフリーアナウンサーで、現在は話し方の講師も務めている方です。
この本では、「相手とスムーズに話すためのテクニック」を6つの章に分けて解説しています。
例えば、最初に紹介されているテクニックは
『ほめ言葉を言われたら否定しない』
です。
誰かにほめられると、照れくさいのもあってついつい、
「そんなことないですよ」
「とんでもない」
「こんなものは~」
と、自分を下げるような言葉を使ってしまいがちですよね。
しかし、考え方を変えると、相手にしてみれば
「自分が「いい」と思ったことを否定された」
となるわけです。
このように、会話というものはささいなことで噛み合わなくなってしまいます。
それを避けて、相手を傷つけることなく考えを伝えるために必要な言葉の使い方がこの本には紹介されているのです。
そして、そのような言葉を使える人は、さまざまな場面で必要とされる、好かれる人になることでしょう。
一度でもコミュニケーションに悩んだことのある方は、ぜひ読んでみてくださいね。
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「やぶさかでない」を使った例文
「やぶさかでない」を使った例文をいくつか挙げてみましょう。
意味や使い方をもう一度確認してくださいね。
例文①
新しいシステムを試してみるのにやぶさかではありませんが、その前に全社員への研修が必要でしょう。
例文②
新年会の参加にはやぶさかでないのですが、あいにくその日は出張で開始時間に間に合いそうにありません。
例文③
もし、その機械によって本当に生産効率がアップするのであれば、導入を検討するのにやぶさかでない。
例文④
佐藤も懇親会への参加にやぶさかでないと申しております。
「やぶさかでない」の類語や同義語
「やぶさかでない」の類語・同義語的な表現には次のような言葉があります。
・むしろ進んでそうする
・喜んでする
・~するのを惜しまない
「やぶさかではない」という言葉を聞き慣れない若い世代の人にとっては、これらの類語や同義語の表現の方が伝わりやすいかもしれませんね。
【1分でわかる!】やぶさかでないの意味や使い方と例文や誤用例、また、語源についてのまとめ
いかがでしたか。
最後に、「やぶさかでない」という言葉の覚えておきたいポイントを振り返ってみましょう。
【意味】
・~する努力を惜しまない
・喜んで~する
【語源】
・「やぶさか」(物惜しみする、ケチ)+「でない」
=出し惜しみしない、ケチケチしない
【使い方】
・何かを頼まれた時の返答
・何かを自ら進んで行いたいという意思を伝える
・「やぶさかでない」+「逆接を表す言葉」で行動への条件を述べる
【誤用例】
「参加するにやぶさかでありません」
○ : 喜んで参加します
× : 仕方ないので参加します
=「仕方なくやる」という意味で使うのは誤用
控えめに自分の意思を伝えたり、受け取り方によっては印象がかなり変わってしまったりと、日本語の奥深さを感じられる言葉ですね。
ぜひ今回の記事を参考にして、正しい意味で自分の意思を伝えてみてくださいね。
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